エバンジェリストは職業ではなく生き様です
皆さん、こんにちは。戸倉彩です。
★本投稿は、 DevRel Advent Calendar 2018 - Day 23 (12/23) 向けの記事です。
2018年1月1日。 ワタシは職業「戸倉彩」をはじめました。
約6年間務めていた "マイクロソフトのテクニカルエバンジェリスト" という肩書きを捨て、自分と家族と向き合い、新しい道を切り拓くための第一歩でした。
そのままをタイトルにした 職業「戸倉彩」をはじめました ブログを投稿した後、国内からは「もったいない」「なぜ辞めたのか」、海外からは「何かやるときは声をかけて欲しい」「Good Luck!」というメッセージが寄せられました。この差はどうして起こったのでしょう。
この時、日本人のもったいない精神は、時としてブロッキングイッシューになることを感じました。そして、全ての人が、自分の意思で何かを捨てて新しい挑戦できる、というわけでは無いことを悟りました。
さて、本題です。
IT業界において、エバンジェリストは企業に所属していなければ意味が無いのでしょうか?
顕著に数字として変化が現れたのは、個人のTwitterアカウントでした。 1月からどんどんフォロワーが減り続け、数ヶ月で約300フォロワーが減りました。
一方で、フリーになったことで中立的な立場で情報が発信できるという恩恵を受け、さまざまな企業やコミュニティから幅広く登壇の機会をいただき、これまでに出会うことが難しかった領域の方々とも交流する機会も増えました。 ▲札幌HoloLensミートアップvol.1の司会 兼 LT登壇させていただきました
その後、今年はワタシにとって、いろいろな大きな変化がありました。 とくに次の3つの出来事は2018年で忘れられないイベントになりました。
2018年5月1日。
「IT × 開発者支援」を通じてエンジニアをヒーローにし、世の中を変えられる可能性を秘めた新たなポジションにチャレンジすべく、再び外資系IT企業のグローバルチームの一員になりましたが、プライベートでは引き続き、職業「戸倉彩」としてのエバンジェリスト活動を継続することにしました。
ここで示すエバンジェリストは、人に技術や開発手法を分かりやすく伝え、拡める役割を担う人のことです。
2018年7月15日。
DevRelCon Tokyo 2018が開催され、英語セッション「10 Things You Need to Know About Developer Relations for Women in Japan」を通じて日本で女性開発者向けのマーケティングを実施する際に考慮すべき点とその理由について紹介しました。業務という考え方から離れ、思いやりを持って自発的に考え、自主的にCfPに応募する行動を取っていなかったら、このセッションは誕生していなかったでしょう。
技術だけでなく、開発者を取り巻く環境の実態を理解し、改善するための働きかけを行うこともエバンジェリストとしてできることの一つだと実感しました。
2018年9月18日。
学生時代から憧れていた月刊雑誌『Software Design』に「Visual Studio Code快適生活」の連載をスタートさせていただくことになりました。ワタシの中では、人生初の連載記事を通じたエバンジェリスト活動だったので、初めは要領がいまいち掴むことができず作業時間や原稿の分量の見積もりに苦労しました。
そして、本日、2018年12月23日。
これまでの人生で、職業としてだけでなく、パラレルキャリアとしてのエバンジェリスト活動を実践してみて見えてきた 5大キーワード をシェアしたいと思います。
1. タイムマネージメント
エバンジェリストにとってタイムマネージメントはどれくらい重要か?
時間管理のテクニックは、エバンジェリスト活動の質や活動できる件数にもっとも大きく関係します。エバンジェリストを始めた人の多くが感じるのが、とにかく時間が無いということ。常に技術が進歩する中で、「やること」と「やらないこと」を決めて優先順位や効率性を考慮する必要があります。時間管理に失敗すると、「準備が十分にできてない」「ダブルブッキング」などの問題が起きることになります。睡眠時間と、家族がある場合は家庭とのバランスも大変重要になってきます。したがって、エバンジェリストにとってタイムマネージメントは必須スキルです。
2. 知名度
エバンジェリストは知名度が高くなければいけないのか?
知名度はもちろん大切ですが、それよりも、まずは技術力を含めた実力が必要となります。ネット記事やSNSを見ていると、知名度の高いエバンジェリストが目立つ傾向がありますが、実際にエバンジェリストに求められているのは知名度よりも圧倒的に中身です。 無名のように見えて、実は特定の技術領域では有名だったり慕われているインフルエンサーの方々が存在します。例えば、万人受けする技術ネタでなくなるほど、SNSでの情報発信で期待できるエバンジェリズムの効果は低くなりますし、専門的なイベントや学会での活動を重視したほうが、本来の目的である技術を拡めるというゴールを達成できるかもしれません。 ワタシ自身は、効果的なケースだと判断した場合は、あえて本名を明かさずにエバンジェリスト活動しています。この辺りについては賛否両論あると思いますが、ワタシは自分の知名度を上げるよりも、ひたむきに活動して真摯に開発者と向き合うことに時間をかけることで、ワタシが啓蒙したいテクノロジーや開発手法が、開発者同士の口コミで広がったりする世界感を重視したいと考えています。 知名度が高いことは集客力などに役立ち、話題性にも繋がりますが、それだけでは開発者とエンゲージできないのが実態なのです。 そして、知名度が上がると、もれなく有名税が発生するため、ストレスにならないような対策や心のケアも忘れてはなりません。
3. 技術力
エバンジェリストは常にスキルアップとの戦いなのか?
少なくとも自分が拡めたいと考えている技術に関連するプログラミング言語や開発環境、最近だとクラウド環境などを扱うための技術力は必要になります。対象としている技術の基礎理解が不足しているエバンジェリストの話は見透かされてしまうものです。そうならないために、企業に所属しているエバンジェリストは業務時間にトレーニング受講や技術資格取得を義務化したりして、エバンジェリスト育成を実施している場合もありますが、一方で、個人でエバンジェリストをする場合は自分でスキルアップのための努力を怠らないようにしなくてはなりません。 エバンジェリストという職業が目立ち始めた当初は専門外の人たちに分かりやすく解説することをミッションとしていたケースが多かったのですが、現在はフルスタックエンジニアと呼ばれているようなマルチなスキルを持つエンジニアも増え、場合によっては自分よりも専門の人に最新情報やその技術を採用した場合のメリットなどを伝えるケースも出てきています。そのような場合は、自分の技術力だけで対応することが厳しいこともあるかもしれません。そんな時は、英語力やコミュニケーション能力も身につけておけば、海外のエンジニアと一緒に活動することで充実した活動ができるかもしれません。技術力が高いだけが、優秀なエバンジェリストとは限りません。
4. 貢献度
エバンジェリスト活動を通じて、何に貢献したいのか?
初めにエバンジェリストとして何を成し遂げたいのかを明確にしておいたほうが良いでしょう。何の技術を、誰に、どのくいらい、どの様に拡めたいのか。企業の場合は、KPI的なものが用意されているケースが多いと思いますが、原則的に、数値化できるものを定めておかないとあまり意味がありません。明確に貢献度合いを可視化することができると、他の人と共有したり、活動結果に対して良かった場合も悪かった場合も原因究明や次のステップに進むための道筋を立てやすくなります。 貢献度合いによって評価制度がある場合には、インセンティブ向上に繋がる場合もあると思いますが、それよりも自分のモチベーションに繋がることは多くのエバンジェリストをしている人に当てはまるのではないでしょうか。
5. センス
エバンジェリストは才能?センス?
エバンジェリストをしながら、エバンジェリストはとにかくセンスが問われる、ことを学びました。同じテクノロジーを拡めるにしても、人によって、第一印象から始まり、話し方、魅せ方、そしてビジネスセンスなど、活動結果がまったく異なるのです。世の中でセンスがあるなぁと思われているエバンジェリストの多くは、エバンジェリストとしての才能が初めからあったというよりも、努力する才能を身につけ、努力によって磨かれたセンスが輝いているように見受けられます。一度にこれらのセンスを磨くことは難しいので、コツコツと自分の弱みを分析しつつ磨いていくのが良さそうです。
[対人]
・言葉使い
・話し方
・立ち方
・座り方
・笑い方
[プレゼンテーション]
・スライドデザイン
・スライド構成
・プレゼンテーション内容
・デモ内容
[技術]
・基礎力
・応用力
・実践力
・テクノロジー選定
・スピード感
[ビジネス]
・マーケティングセンス
・営業センス
・ビジネスセンス
エバンジェリストは職業である必要はなく、自称エバンジェリストと名乗っても名乗らなくても、技術にパッションがある人が人生の限られた時間の中で誰かのために、もしくは次世代のために必要と思った情報を届けるための活動ができる存在だと再認識できたことが、ワタシにとって今年の一番の成果でした。 テクニカルエバンジェリストに求められる5つの基本スキル
職業「戸倉彩」はワタシの人生であり、生涯にわたって研鑽(けんさん)されていくものだと考えています。 そして、エバンジェリストは職業ではなく、その人の生き様であることを改めてここに記しておきたいと思います。
これまでワタシを育て、応援してくださったすべての方々に感謝を込めて。
Have a happy DevRel Life♪
※Twitterで最新情報発信中 @ayatokura